12月1日に行う水神様の祭り

年中行事のなかには、忘れ去られてしまったものも少なくない。カピタリもその一つだろう。カピタリは、12月1日に行う水神様の祭りである。餅を搗(つ)いて川に供える日で、「川浸り」が訛ったものともいわれる。地域によってはカワピタリ、カワピタレ、カビタシ、カピタリツイタチなどとも呼ばれていた。

水難事故に遭わないことを祈る

この日は、餅や団子、饅頭などを川に流したり、橋のたもとに置いたりして、水神様に子どもが川流れ(水死)しないことを祈った。そうした地域には、それらを食べるまで、あるいは供えるまでは川に近づいてはならないとか、橋を渡ってはいけないという禁忌があり、守らないと河童(かっぱ)に引きこまれてしまうといわれた。供えた餅や団子は、川の中から拾い上げて食べると風邪をひかないとか、虫歯にならない、あるいは水の事故に遭わないなどとされた。また、馬に食べさせて、馬の健康を願う地域も見られた。

干害や洪水が起きないことを願う

県内でも数少ないカピタリの行事を行う鹿沼市の菅沼一誠氏は、12月1日の早朝に米粉で作った餡入りの餅を神棚や仏壇など家の中の神仏7か所と屋敷の東側を流れる黒川の水辺に供えて、水神様に干害や洪水が起きないことを願う。菅沼家ではまた、この日を正月準備のはじまりの日と位置付け、煤(すす)払いや注連縄(しめなわ)作り、餅搗きなど一連の準備をおよそ1カ月かけて行う。

水神様に祈る(2011年・鹿沼市)

餅を川に流す風習も

カピタリの風習は、多くの地域で失われてしまったが、鬼怒川流域の宇都宮市やさくら市などでは、現在も「カピタリ餅の由来話」を聞くことができる。餅を川に流したおかげで河童にさらわれずに済んだという民話で、12月1日になると二度と河童が出ないように、餅を搗いて川に流すようになったという。カピタリは民話として、次の世代に受け継がれているようだ。

正月準備の始まりの日に

水は、人間にさまざまな恵みを与えてくれる一方で、時には命を奪うこともある。だからこそ、水を司る水神様に畏敬の念を抱き、12月1日を祭日とした。カピタリは、正月を前にした禊(みそぎ)の日とも位置付けられているが、一年の最後の朔日(ついたち)に、このような行事が行われていたことはとても興味深い。

カピタリのあんころ餅(2011年・鹿沼市)

篠﨑 茂雄

1965年、栃木県宇都宮市生まれ。宇都宮大学大学院教育学研究科社会科教育専修修了。栃木県立足利商業高等学校、同喜連川高等学校の教諭を経て、1999年より栃木県立博物館勤務。民俗研究、とくに生活文化や祭り、芸能等を専門とし、企画展を担当。著書に『栃木民俗探訪』(下野新聞社)などがある。