「恵比須講」で秋の収穫を祝う

10月20日は恵比須講(えびすこう)である(旧暦の10月20日、もしくは月遅れの11月20日に行事を行う地域もある)。この日は、「エビスコ」、「エビスッコ」などとも呼ばれ、普段は神棚や台所に祀っておく恵比須様と大黒様の像を下ろして、恵比須様と大黒様の掛け軸を下げ、その前に尾頭付の魚や赤飯、餅、蕎麦、けんちん汁などを供える。また財布や算盤(そろばん)、一升枡に入れた小銭など商売に関するものや生きた魚を丼に入れて供える人もいる。

恵比須講で商売繁盛を祝う。(鹿沼市・平成19年)

家内安全、商売繁盛、五穀豊穣の恵比須様

恵比須様と大黒様はともに、日本で福徳を授けてくれるとされる「七福神(しちふくじん)」の一柱である。このうち恵比須様は、狩衣(かりぎぬ)姿で釣竿を持ち、鯛を抱えた神様である。元来は漁民の神で、海の彼方からやってきた外来の神といわれる。一方、大黒様はヒンドゥー教のシヴァ神の異名とされる。いわゆる破壊と再生を司る戦いの神であったが、中国に伝わると食堂の神に変化し、それが最澄(さいちょう)によって日本に伝えられ、後に大国主命と習合すると福の神として信仰されるようになった。そのため、初期の大黒様は憤怒の形相をしていたが、現在は福袋を担いで打ち出の小槌を持ち、にこやかな顔で米俵に乗った姿が一般的である。いずれも、家内安全、商売繁盛、五穀豊穣の神として篤く信仰されてきた。

恵比須様と大黒様(栃木県立博物館蔵)。

稼ぎに出た恵比須様を歓待する

恵比須講は、正月明けの1月20日と10月20日の年に2回行う地域もある。1月の恵比須講は、出エビスとも呼ばれ、恵比須様が稼ぎに出かける日とされる。それに対して、10月の恵比須講は帰りエビスという。つまり、1月に稼ぎに出かけた恵比須様が、正月を前にそれぞれの家に帰ってくるのである。そのため各家では供物を用意して、恵比須様を歓待した。尾頭付の魚や生きた魚を供えるのは、釣り好きとして知られる恵比須様を意識したものだろう。また「千両で買います、万両で買います」など売買の真似事をする家もある。

恵比須講の供え物(鹿沼市・平成16年)。膳には尾頭付きの鯛が見える。左上には一升枡が置いてあり(餅の奥)、中に金が入っている。枡にかけて、ますます金が入るようにとの願いが込められている。

収穫への感謝を込める

農家にとって、米や野菜の収穫期である秋は、まとまった現金が入る季節でもある。恵比須講には、無事に収穫できたことへの感謝の意が込められている。一方、肥料屋や荒物屋など商家では、10月の恵比須講にお得意の家を接待してご馳走した。そして、招待された家では、春先にツケで買った代金を支払うことが習わしとなっていた。こうした支払いをエビスコ払いという。さらに、各地の神社では市が立ち、野菜や魚、熊手などの縁起物が売りに出された。10月の恵比須講が過ぎれば、今年もあとわずか。正月準備を始める季節となる。


篠﨑 茂雄

1965年、栃木県宇都宮市生まれ。宇都宮大学大学院教育学研究科社会科教育専修修了。栃木県立足利商業高等学校、同喜連川高等学校の教諭を経て、1999年より栃木県立博物館勤務。民俗研究、とくに生活文化や祭り、芸能等を専門とし、企画展を担当。著書に『栃木民俗探訪』(下野新聞社)などがある。