あたたかい笑顔で店に立つ松島さん。似顔絵もそっくり!

「20代男性趣味は保存食作り!」

棚に並ぶのは、季節の果物や農作物を使った手作りの瓶詰商品。ジャムやドレッシング、ピクルスと、個性派ぞろいのラインアップに、心躍らせながら品定めをしていると、作り手である「Funky Pine」の瓶詰職人・松島宏直さんが声をかけてくれました。説明をしてくれる言葉の端はしに、一つ一つの商品に対する松島さんの思いの深さを感じます。

高校の調理科を卒業した後、県内のホテルやカフェレストランに勤務していた松島さん。保存食の世界に足を踏み入れたきっかけは、料理の修行中に起きた、こんな些細な出来事でした。

「仕事中、冷蔵庫の掃除をしていると、奥の方からシワシワのニンジンが出てきたんですよ(笑)。保存するために冷蔵庫に入れたのに、食材がダメになる…。昔の人は一体どうやって保存したんだろうって気になって、いろいろ調べるようになったんです。それで自分でも保存食を試してみたら、思いのほか、煮たり干したりっていう作業がすごく面白かったんですね」

それからというもの、休日ともなればジャムや燻製、乾物といった保存食を楽しんで作るように。一般的な20代男性の趣味としては、少し珍しいようにも感じますが、松島さんにとって保存食作りは、バイクや熱帯魚などいくつかの趣味のなかの一つにすぎませんでした。

店内にはジャム、ピクルス、ドレッシングが並ぶ。ギフト発送も可能。

ジャム作りが人生最大の転機に

煮ては詰めて、煮ては詰めてと、自分一人では食べきれないほどの量になると、松島さんはジャムを身近な友達に分けるように。「おいしい! どこで買ったの?」と聞かれるたび、自分が作ったことを話し驚かれることが、何よりの楽しみとなっていきました。時期を同じくして、料理人として独立を考えていました。方向性の迷いや不安もあり、諦めかけたこともありましたが、松島さんのジャムを手にした仲間から「これって仕事にできるんじゃないの?」という一言が、人生最大の転機となったのです。

生産者の思いを込めた手作りの瓶詰商品。自然味ある味わいが魅力。

「知らない」ということの強みをいかす

「誰もやったことのないことをやってみたいという気持ちはありましたが、自分のこととなると案外気づかないものですね。サービス業から製造業への転身、第3次産業から第2次産業へ参入することは稀なケースなようで、何も知らない僕がひょっこり入ってしまった(笑)。『知らない』って、ある意味強さですよ。でも知らないからこそ知りたい、保存食への好奇心と探求心が僕を動かしてくれたんだと思います」

さまざまな人の出会いから、着実に夢へと近づいていった松島さんは、念願叶って瓶詰工房「Funky Pine」を開業。しかし、仕入先も売り先もない、見事なまでの見切り発車。瞬時に「とりあえず、バイト探そう!」と、工房が軌道に乗るまでのしばらくの間は、学校給食の調理の仕事とダブルワークを続けていたそうです。

イベントには販売車で出店。松島さんの瓶詰はどこに行っても大人気

瓶詰食品の加工業という新たな市場へ

「僕、意地がないんですよ。でもありがたいことに、人に恵まれてきたんでしょうね」

ふとした疑問から“保存”に興味を持ち、趣味から本職へとのめり込んでいった保存食作り。地元である鹿沼市で瓶詰工房を始めて現在6年目。今ではジャムの製造だけでなく、県内の生産者が育てた果物や野菜を瓶詰商品に加工する代行業も請け負う松島さん。加工所を持つことが難しい生産者の皆さんを少しでも手助けできるようにと、二人三脚で農産物の瓶詰商品化に取り組んでいます。そして、驚くことに松島さんは再び、新たなチャレンジを始められたばかりなのだとか。

「今、菓子製造の許可をとって、お菓子を作っているんです。賞味期限の近いジャムをどうにか再利用できないかと思って。で、これがまた売り先もないのに、楽しくなっちゃって、どんどんレシピ開発とか始めちゃって、懲りないのなんのって(笑)。でもご縁があって、昔からの仲間の『あおぞら珈琲』さんに置いていただくことが決まり、それからいろいろと注文をいただけるようになりました」

またもや見切り発車、またもや新事業への参入。小さい店ながらも、フードロスを減らし社会貢献につながればとの思いはあるけれど、結局、松島さんを動かすのは「知りたい」という、好奇心と探求心なのかもしれません。

「cafeくーずべりー」の一角ではFunky Pineの瓶詰を販売。

瓶詰工房「Funky Pine」 松島 宏直さん

昔ながらの保存食製造法で、着色料や保存料を一切使用しないジャムなどの瓶詰商品を製造・販売。農作物生産者の加工代行も行う。現在、宇都宮市下荒針町「cafeくーずべりー」の一角にて常設販売中。
https://funky-pine.com