数え20歳の男子、婿入りした男子の元服式

鬼怒川の上流、川俣湖のほとりに位置する日光市川俣では、例年1月下旬(かつては1月21日)に元服式が行われる。このなかで、川俣出身の数え20歳の男子、そして他の地域から婿入りした男子(子分という)が、地域に住む人々の見守るなかで、親分と契りを結ぶ。

行事の主役は子分である。子分はあらかじめ親分になってくれる人を選んでおくが、普通は血縁関係が切れそうになっている家の夫婦に頼んでおく。また、付人(中学生くらいの男子)と雄蝶・雌蝶(6歳前後の男女)も見つけておく。当日、会場となる川俣集会所には、7品目の料理と酒、岩魚が用意され、上座には地域の長老、右手に数え年15歳から48歳までの男子からなる若衆、下座に女性や子どもが座り、元服式の場を皆で見守る。

写真は、2011年に行われた川俣の元服式の様子。手前が親分夫婦、奥右側が子分である。数え年の20歳は満18歳、高校3年生である。かつては1月21日、山の神の祭礼の翌日に実施していたが、10年ほど前から大学入試センター試験を優先させるため、日程が移されることになった。子分の隣は付人、その横に座るのが雄蝶(おちょう)と雌蝶(めちょう)である。式は地域の人が見守るなか進行する。

親分・子分の固めの盃

親分と子分が所定の場所についたら、はじめに「親分・子分の固めの盃」を行う。雄蝶と雌蝶がついだ酒を親分、親分の妻、子分が飲み分けるものであるが、これは結婚式における夫婦固めの盃(三三九度)に類似する。この間、長老により謡曲「高砂」が謡われる。続いて、付人が生身の岩魚を五等分に切り分け、親分と親分の妻、子分が分け合って食べるまねをする。これは「尾頭付きの儀」と呼ばれ、血肉を分けるという意味がある。

尾頭付きの儀。イワナを切り分ける付人(オツレ)。

最後に自治会長からの発表で、親分と子分の関係が成立する。式が終了すると、若衆により「三番叟(さんばそう)」と「恵比寿大黒舞(えびすだいこくまい)」が披露され、皆で新たな門出を祝福する。

恵比寿大黒舞。元服を祝って行われる。

一人前になったことを認めてもらう儀式

川俣の元服式は、今日の「成人式」である。一人前になったことを周りの人々に認めてもらう儀式で、新しい名前が与えられ、公家や武士の頭に冠(烏帽子)を加えられるという風習が、庶民に広まったものと考えられている。川俣では、親分(いわゆる後見人)が子分に新しい名前を与えたことから名付け式とも呼ばれ、親分を烏帽子親という人もいる。このように親子ではない者が、社会的に親子に擬した関係を結ぶことは、決して珍しいことではない。しかし、現代ではとても貴重な風習であることから、「川俣の元服式」は昭和62年に国の重要無形民俗文化財に指定された。

元服式に出される料理。料理にはそれぞれ意味がある。左から桜海老(長寿)、数の子(子孫繁栄)、タコ(忍耐)、豆(健康)、きんぴら(紅白)、昆布巻き(結束)、ワカサギ(若さ)である。

農村が生き抜くための知恵

ところで、この親分と子分の関係は生涯にわたって続く。子分は実際の親と同様に親分を慕い、親分は子分の面倒を見る。そして、同じ親分を持つ子分同士は兄弟として付き合う。元服式を行うことで、新たな相互扶助の関係が生まれ、それがより強固なものとなるが、これは厳しい農山村の生活を地域全体として生き抜くための知恵と考えられている。親子の断絶や孤独死などが社会問題化して久しいが、そうした時代だからこそ注目してほしい行事である。

謡(うたい)の様子。謡で場を盛り上げる長老(前列の右2人)。

※地区に対象者(新成人など)がいる場合のみ実施します。見学する際は、行事の有無を確認してください。


篠﨑 茂雄

1965年、栃木県宇都宮市生まれ。宇都宮大学大学院教育学研究科社会科教育専修修了。栃木県立足利商業高等学校、同喜連川高等学校の教諭を経て、1999年より栃木県立博物館勤務。民俗研究、とくに生活文化や祭り、芸能等を専門とし、企画展を担当。著書に『栃木民俗探訪』(下野新聞社)などがある。